WORLDのPythonラッパーpyworldを試す
前々からLinuxで使えるボイチェンが欲しくて、何度かWORLDをおすすめされていたのだけれど C++があまり得意ではないので二の足を踏んでいた。 (最初は出来るだけオリジナルを使用したい民なので、pyworldの方はまだ試すつもりがなかった)
でも、まぁそろそろやる気が出たのでPython版を使ってみる。
ちなみに、Grallion2とかはLinux対応しているらしいので既存のもので良いならそっちの方が良いと 思う。
今回の目標
最終的には自分用のボイチェンを作りたいのでリアルタイム処理を したいのだが、とりあえずは音声ファイルを変換するのを出来るようにする。
やることの大雑把な流れ
大雑把な流れとしては、以下の通り。
音声を読み込む
WORLDがモノラルしか受け付けないようなので、チャンネルを分離する
WORLDの関数を用いて、それぞれ要素を分解する
ピッチ・フォルマントをそれぞれいじる
合成する
音声を書き出す
使用ライブラリ
音声合成などに関してはpyworldを用いるとして、他の処理に用いるものを。
音声変換 | pyworld |
wavファイル読み込み | soundfile |
尚wavファイルの読み込みには scipy
を使うこともできるらしい。
環境構築
グローバルに入れるの嫌だけど、ffi使う都合でC関連のものを グローバルに入れなきゃいけなくてめんどくせーー!!のでDockerで環境を閉じ込める。 ついでに可搬性も手に入るしね。
ちなみにnixも試したが、手元の環境で上手く動かせなかったのでDocker。
ベースイメージ
ベースは軽ければ特にこだわりがないので、 python:3.9-alpine
を使う。
pythonのバージョンは、確か3.10だと上手く動かなかったので3.9にした記憶がある。 ただ、python以外の依存パッケージ系を色々入れてなかったので、その影響だったのかもしれない。 Dockerイメージ作り直すのが容量的にキツいのでそのまま3.9にしてある。
FROM python:3.9-alpine
pyworldの導入
pyworldはC++で書かれたWORLDのラッパーなので、g++を必要とすることに注意。 最初これに気付かなくて困った。
RUN apk add g++
RUN pip install pyworld
soundfileの導入
注意点として、 libsndfile/libffiは dev版を入れる こと! さもなくば、ヘッダファイルがなくて怒られる。
あとbuild-baseもいる。(はず)
run apk add libsndfile-dev libffi-dev build-base
RUN pip install soundfile
コーディング
ボイチェンの基本的なしくみ
凄い大雑把だが、ボイチェンは声の ピッチ と フォルマント をそれぞれ変換してやることで実装されている。
ピッチが音の高さ、フォルマントが声色と呼ばれているやつだ。
正直ここらへんは専門ではないので、詳しくは調べてほしい。気が向いたらそれ関連の リンクについても纏めようと思う。
で、これらのうち、特にフォルマントは簡単に取得できるものではなく、 「推定」を行う必要がある。
WORLDはここらへんをよしなにしてくれる。
wavファイルの読み込み
まずは読み込む。 読み込むといったってpyworldで使える形式でないと意味がないわけなので先にそこを説明する。
pyworldの関数は
一次元
メモリーレイアウトが 'C'
Double型の中身を持つ
numpy.ndarray
を要求する。
これはそれぞれの関数の中の定義でも書かれているが、 wav2worldの実装 でも書かれている。
なので、 numpy.ndarray
として読み込めるものなら何でも良いだろう。
とりあえず見た範囲では、以下の二つのライブラリが使用例があった。
scipy.io.wavfile(使用されている記事: 音声合成システム WORLD に触れてみる - Qiita)
pysoundfile (使用されている記事: pyworldのデモコード)
今回は、デモコードで使われていたという理由から pysoundfile
を採用した。
soundfile.read("filename")
チャンネルの分離
pyworldの関数達は次元数が1の ndarray
しか受け付けないわけだが、
1チャンネル辺り1次元で作られるため
元の音源がステレオ以上だと次元が多すぎてエラーを吐かれてしまう。
>>> pw.wav2world(data, samplerate)
Traceback (most recent call last):
File "<stdin>", line 1, in <module>
File "pyworld/pyworld.pyx", line 654, in pyworld.pyworld.wav2world
File "pyworld/pyworld.pyx", line 93, in pyworld.pyworld.dio
ValueError: Buffer has wrong number of dimensions (expected 1, got 2)
なので、音源が2チャンネル以上ある場合は切り分けてあげる必要がある。
soundfile
で読み込んでいる場合、これをするには
data[:,0]
のように、二つ目の添字をいじってあげることで取れる。
ここら辺の説明は面倒なので、というか結構色々あるので調べてみてほしい。
numpy.ndarray
の構造までは知らなくていいと思うが、添字アクセスの仕方を知っていれば
まぁわかると思う。
そしてここで注意
こうして制作したデータは、メモリ上で連続して存在しないため、 pyworldの関数に渡すことができない。 そのため、
data[:,0].copy(order='C')
として並べ替えてあげる必要がある。 尚、これについては少し後にもう少しだけ詳しく書いてある。
ピッチ・フォルマント推定
これはもうworldにおまかせ。詳しいことはわからん。
色々関数があるが、一括で欲しいパラメータを全て取得出来る wav2world
を使用する。
f0, sp, ap = pw.wav2world(data[:,0].copy(order='C'), samplerate)
ピッチ・フォルマントをいじる
ここは一番手間がかかる所。先程取り出したパラメーターをよしなに変える。 正直ここは調整の話になってくると思うので、今はよくわからん。参考にしていた記事にあった所を ちょっと弄っている所。
for f in range(converted_sp.shape[1]):
converted_sp[:, f] = sp[:, int(f/1.2)]
converted_f0 = f0*2
合成する
これももうお任せ、 pyworld.synthesize
に pyworld.wav2world
した時の戻り値(とそれを
いじったもの)を用いることで合成できる。
pw.synthesize(converted_f0, converted_sp, ap, samplerate)
書き出し
書き出しする際は、それぞれ分けていたチャンネルを一つに結合させる必要がある。
numpy.ndarray
を結合する関数は色々あるが、とりあえず numpy.stack を使うと
簡潔に出来たのでこれでいく。
np.stack((ch1, ch2), axis=1)
こうすると、元の形と同じ形式になる。
これを後は書き込む。
soundfile.write(OUT_FILE, result, samplerate)
実装の注意点
pyworld.wav2worldはモノラル音源を期待する(らしい)
実際のドキュメントとか見たわけではないが、2chのwav音源を引数に与えた所 以下のようなエラーを出された。
Traceback (most recent call last):
File "<stdin>", line 1, in <module>
File "pyworld/pyworld.pyx", line 654, in pyworld.pyworld.wav2world
File "pyworld/pyworld.pyx", line 93, in pyworld.pyworld.dio
ValueError: Buffer has wrong number of dimensions (expected 1, got 2)
(ちなみにこれはReplでの表記なので実際に出たものとはほんの少し違うと思うが、まぁ大体同じ。)
なので、 チャンネルをそれぞれ分けて変換する必要がある らしい。
チャンネルを分離する
soundfile.read()
で読み込んだデータは、nx2行列
(多分。2xnだったりする??numpyの行列表現の順序に自信がない)
として表現されている。サンプル数がn、チャンネル数が2のデータだ。
これを愚直に取り出すと、以下のようになる
FILENAME = "入力に使いたいファイル名"
data = soundfile.read(FILENAME)
ch1 = data[:,0]
しかし、これをそのまま利用しようとすると「C-contiguous」でないため怒られる。
>>> pw.wav2world(data[:,0], samplerate)
Traceback (most recent call last):
File "<stdin>", line 1, in <module>
File "pyworld/pyworld.pyx", line 654, in pyworld.pyworld.wav2world
File "pyworld/pyworld.pyx", line 93, in pyworld.pyworld.dio
ValueError: ndarray is not C-contiguous
この原因は、 ch1
が内部構造として非連続的である(?)ことが原因らしい。
ここら辺の情報は色々探したが日本語・英語共に見付けられなかったので、原文をそのまま
書くと「The data is in a single, C-style contiguous segment.」じゃなかったのが問題だったらしい。
(情報元はnumpy.ndarray.flagsのドキュメントの C_CONTIGUOUS
の部分)
これは推測だが、恐らく、 ch1
に含まれる値は実際の値をコピーしているのではなく、
元の data
の中に飛び飛びで存在する値を参照しており、連続的ではないのだと思われる。
これだとC言語側に渡した時に連続したアドレスから値が取得できないため、問題になってしまうのだろうなと
感じた。
>>> data.flags
C_CONTIGUOUS : True
F_CONTIGUOUS : False
OWNDATA : True
WRITEABLE : True
ALIGNED : True
WRITEBACKIFCOPY : False
>>> data[:,0].flags
C_CONTIGUOUS : False
F_CONTIGUOUS : False
OWNDATA : False
WRITEABLE : True
ALIGNED : True
WRITEBACKIFCOPY : False
そこで、 C_CONTIGUOUS
に変換していく必要がでてきた。
色々な方法があるのかもしれないが、今回は numpy.ndarray.copy() を利用する。
copy()
はその ndarray
のコピーを返す関数で、
パラーメーター引数 order
を設定することでメモリーレイアウト
(直訳、適切な訳があれば知りたい)を変更できる。デフォルトは C
らしいが、明記しておいた。
data[:,0].copy(order='C')
# これで、きちんと pyworld.wav2world に渡せるレイアウトになる。